コバンザメとおんぶおばけ
『コバンザメ』というのは、くっついているほうの魚のことか、くっつかれている魚のことか・・・、どちらだったかなと錯覚に陥って、一瞬迷います。
初めて水族館で巨大な魚に寄り添って泳ぐコバンザメ(小判鮫)を見た時に、ぴったりと、全く同じ速度で全く同じ方向へ、少しもぶれることなくその巨大な魚にくっついて泳ぐ姿を見て、これほど相手に完全に同化してしまうことに感心しました。
しかし、実は吸盤で相手の体に吸い付いているということを知ってもっと驚きました。
コバンザメは、相手に寄り添って泳ぐなどというシロモノではありません。
相手の体に吸盤で吸い付いて過ごし、自分では何もしないで口だけ動かしているだけの不届きもの!
移動も相手任せ、食物は巨体が食べ残したおこぼれを間違いなく口にしている。言ってみれば、“生涯、不労所得で遊んでいるヤツ”です。
体内に住み着いて闇の中で過ごす寄生虫よりも、明るく自由を確保しつつくっついているというそれこそすごいヤツです。
人間社会にもそんなコバンザメ、腰巾着、金魚の糞などと揶揄される人物が珍しくありませんが、これほど徹底していると少し参考にならないかと考えてしまいますが、くっつかれた方はたまりません。
どんなに振り解きたくとも疲れるだけです。まさに『おんぶお化け』です。
さてしかし、もっとすごいのは人間です。
コバンザメを捕まえてその習性をウミガメ漁に利用するのだそうです。
コバンザメのしっぽをロープで縛り、ウミガメの近くで放すとコバンザメは一直線にウミガメに向かって行って腹にくっつく。しっぽに縛り付けたロープを引いてコバンザメと一緒にウミガメを捕まえる。
つまり確実にウミガメを捕まえてきてくれるのだそうです。
ウミガメにとってコバンザメはまさに死に神みたいなもの、『おんぶお化け』です。
企業には、大きくなればなるほど、働きが悪く不効率で足を引っ張る、そして調子よく住み着いているだけの、コバンザメのような社員が必ずいます。
働きが悪いだけでなく、いつの間にかこちらが漁師(競争相手)に引っ張り寄せられて、危なくなってはたまりません。